24日に会いましょう、それまではお互い静かな時を過ごしましょう、と上野と昨日約束を交わして別れたはず。
それなのに、朝方、上野から電話が来た。
しかし、その声は実に神妙で、言ってることもなんだかネズミっぽくない。
【以下録音内容を抜粋・加筆・訂正等】
「私になんか言うことないかな?」
上野明美は唐突にそう切り出した。
なんだこのセリフ、私たちのやってることがバレた?何が?どこまで?
私の頭は完全にパニック状態だった。
「はい?」
「私に何か言うことない?」
「私に?例えば?」質問返しで、とりあえず時間を稼ぐ。
「やたらしゃべれないからね、録音されてるから」
「だって、忘れちゃうから」
必死に頭を働かせる私。
だって、録音のことなら12日の段階で気づいていたはずだ。
今になって録音を気にしているのか?
「私、ちょっとショックなんだけどさ」
録音だけで、そんなにショックを受けるものなのか?他の理由があるのか?
「録音されたくない内容をしゃべらなければいいじゃん」
「そうね」
なんとなく腑に落ちていない様子。
「Cさんの方から私に伝えることないん?」
これはバレたのか?寺田との計画を感づかれたのか?上野のブラフか?かまをかけているのか?
「伝えること?伝えることはないですよ、別に」
とりあえず質問をはぐらかす。
もう面倒になって、私は思っていることを話し出した。
「私が田端さんに会わせて、大崎さんに会わせてって言ったって、聞き入れてくれないじゃん」
「あぁ」
違うな、そういう答えを求めているんじゃないな。
この時はまだ録音のことで不信感を抱かれたのだと私は判断していた。
「ちょっといろんなことでショックがあってさ、もう、無理。日にちがさ」
「あぁ、ダメだって24日じゃ」
早合点した私は、上野が遅いから、田端が見限ったのだと思った。
「そう」上野の真意はそこにはない。
しかし、聞き返してみるとよくわかる。
あの饒舌だった上野明美はどこへ行った?
それほどのショックなのか?
もう、当初の作戦は遂行されず、田端との線も切れるなら、実力行使、上野ネズミだけでも捕獲しよう。
「今から警察行く?一緒に」
「なんで?私、詐欺働いてないよ」
そりゃ上野は警察なんかこわくない。
今までだって、散々、追い返しているのだから。
詐欺は親告罪。私が動かない限り、警察は動きようがない、と上野は考える。
しかし、私はそこの話をしているのではないのだ。
「あなた社会福祉協議会の給付金、これ前にも話したでしょ?コロナのヤツ、あれどういうふうに申請したの?」
うなだれる上野。これに関しては、上野自身自覚があるのだ。
「私、警察行かないよ」
大丈夫、多分、向こうから迎えが来る。
押し黙る上野。
仕方ない、腹を割って話そう。
「いつ気づいたの?ばれちゃった?」
「何が?」
えっ、違うの?私、まさかのオウンゴール?
「録音してるから怪しいなって思ったんでしょ?」違うの?「伝えることって何?」
どういうこと?なぜ黙る?
「10月の末までは待てない?お金返すの」
その後、私は詐欺に関して講釈を垂れてるけど、そういうことじゃないんだな、多分。
刑事とか民事とか、そんな話を望んでいるわけではないようだ。
押し黙る上野。
気持ちよく説教する私。
なんだこの違和感は。
なぜこれほどまでに上野はしゃべらないんだ。
そんなに録音が嫌なのか?
「ん~」
※ブログ執筆時、今なら上野の気持ちはわかる。しゃべりたくてもしゃべれない理由があるのだ。
「私が伝えることって何?」
これが当初から気になって仕方ない。
「んん~」もだえるような声をもらすだけの上野。
なんだ?どうしたって言うんだ。
上野がなかなかしゃべらないので、私が代わりにベラベラしゃべる。
「24日にお金を用意してどうしたいわけ?」
こうしたいわけ。
「それで私を捕まえたいわけでしょ」
「う~ん」
言ってもわからないか。作戦を暴露。
ここでまた私の説教が始まる。
やはり、そういうことじゃないんだな。
納得してるんじゃなくて、気を使って相槌を打っている感じがする。
なんなんだ、この感じは?
私は、呑杉さんの経緯の矛盾を突く。
タイミングはおかしくない?
なんか仕方なく私の言葉に耳を傾けているけど、納得はしていない感じがする。
「だから、私は本気で終わらせようと思った」
「今日で終わった」
本当に終わった、という感じに上野はきっぱりと言った。
「10月末まで待ってるよ」
上野は一縷の望みにかけているようだ。
10月末までにお金がくれば、一発逆転である。
私も上野の家族も見返すことができる。
警察、警察と私が連呼するから、さすがの上野も動揺し始めた。
聞く耳を持つというのは、素晴らしいことだ。
「10月の末までにお金が戻らなかったら、警察に行くよ。だから10月の末まで、いろんなことを待っててもらえればなって」
>いろんなこと
※上野を蝕む病巣は、これだったのだ。しかし、リアルタイムの私にはわからない。
「いや、もうその言葉は信じられないかな」
「うん?」
「あなたのことは信じられないかな」
昨日まで、信じてる、信じてる、言ってたくせに、ほんと、人間なんか信じられない!
「10月末までに、家族と話をして、借金をどういうふうに返すのか、相談してください。10月末までに返ってきたら、そのまま返してくれればいいよ。10月末までに返ってこなければ、どうやって返すのか、それを相談してください」
「もう家族で、大もめになってるからね」
なぜ家族でもう大もめになっているんだ?
いつ何がバレてそうなったんだ?
単に自分がしゃべったからか。
「もう私、どうしたらいいんだろ…」自業自得じゃボケ。
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