「詐欺じゃないの、詐欺だと困るのよぉ」と上野明美(仮名)は、人工甘味料のような甘ったるい口調で言った。「だから、30万円、貸してください」目をわずかにうるませながら、上野の婆さんは懇願した。
後を追うように「30万、お父さんの口座から、用立ててください」と、義母の高田永子(仮名)も続けた。その言葉に我が耳を疑った。「まさか」と思ったものの、同時に「やはりな」と思う自分もいた。
「30万円貸してくれ」静かだが、熱量のこもった2人の婆さんの懇願に、私は少したじろいでいた。だじろぎながら、不快な気分になった、とても。「やれやれ、反吐が出る」思わず心の中で本音がもれた。
齢(よわい)70を越えた2人の婆さんの「金を求める」4つの目。まるで薬物中毒者が、コカインを求めるような、おのが欲望を満たすためには何でもしてやろうとする、もがき苦しむあの目。
私はあの目を、いつまでも忘れることはないだろう。
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