朝のあわただしさの合間、義母の高田永子に話をする。
「相談に乗ってくれる人がいるので、今度一緒に行きませんか?」
もちろん、答えは芳しくはない。
「えっ、いいよ(もちろんNOの意味でのいいよ)、あの件はもう済んだから」と義母は言い「それより、別のが…」と抜かしやがる。
この婆さん、まだ何か爆弾を持っていやがるな、と怒りが心頭に発しそうになるが、何とか抑える。
にじり寄って、“別件”を問いただしたい気持ちを抑え、言葉に気をつけながら私は何とか「ノー」と言わせない会話を考える。
「お金とか、生活とかの暮らし全般の相談のプロで、なんでも相談できるので、ぜひ行きましょうよ」
オレ氏、論理で攻めないように気を付けろ!
「う~ん」困り顔の義母。
「今回のことが終わっているなら、別の困りごとでも、悩み事でもなんでも聞いてもらえるので、行きましょう、来週の月曜日は空いてますか?何か予定がありますか?どうですか?月曜日の9時半。予約取りますけどいいですね?」
「月曜日はお父さんがいるから」
「あれ、月曜日はいるんでしたっけ?」
「デイサービスは、火・木・土」
「じゃ、火曜日はどうですか?」
「う~ん」
「じゃ、火曜日の9時半に予約入れておきますからね」
もちろん最後まで渋る高田永子。
半ば強引ではあるが、市役所の消費生活センターの相談窓口への扉は、一応は開かれた。
もちろん、「市役所」とも「消費生活センター」とも、私の口からは出ていないが。
私の住んでいるのは、北関東自動車道が走る某地方都市。
かつては銘仙で有名で、今はもんじゃ焼きと巨大な焼きまんじゅうが有名どころだ。
もちろん、私はイチゴシロップの入った甘ったるいもんじゃ焼きなんて子どものころから食べていないし、焼きまんじゅうはお土産として買うか、誰かが買ったお土産として食べる程度だ。
行政サービスとして今はどの自治体にも、消費生活センターなるものがあるのだろう。
「自治体名 詐欺 相談」で検索したら、すぐに出てきた。
警察に相談したいところだが、この手の事案は、警察ではまず取り合わない、とネットに書かれているので、それをわざわざ確認しに警察に出向く前に、2021年12月1日市役所へ行った。
消費生活センターは市役所の最上階5階にあった。
利用する人も少ないのだろう、ものすごく静かで、一番辺鄙なところに構えた部署のように思えた。
まあ、連日利用者であふれているようでは、それはそれで困りものだが。
対応してくれたのは、日暮里さんという女性で、センシティブな案件を毎日扱っているからだろう、物腰が柔らかく、用心深さを兼ね備えた人だった。
長い話を最初から最後まで、丁寧に事細かに話すのは、本当に難しいことだ。
日頃からそんな訓練はしていないし、そんな必要もないのだから。
私は言葉を選び、言いよどみつつ、真実とか事実は定かでなくても、少なくとも誠実に、物語を話そうと思った。
消費生活センターはあくまで相談窓口で、できるのは相談であり、解決ではない。
「最終的には個人様のご判断ですから…」申し訳なさそうに何度も言う日暮里さんに、こちらこそ申し訳なく思う。
それはそうだ。いい大人の個人的な問題にまで、公的機関がどうこうすることはできない、「民事不介入」、警察に行っても仕方ないのは、「民事不介入」の大原則があるからだ。
それは百も承知でお邪魔しているので、本当に申し訳なく思う。
ただ、あの日の2人の婆さんの、あの目を忘れられない私は、もうどうにも居ても立ってもいられなくなってしまったのだ。
馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない
義母が日暮里さんと話をして、変わるのか変わらないのか、それはわからない。
良くなるのか悪くなるのか、それもわからない。
それでも今の私に出来ることは、「馬を水辺につれて」いくこと、義母を消費生活センターに連れて行くことである。
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