2021年 ゴールデンウィークあたり



出来心というか、私にも悪意に近いものがあったのだろう。

もちろん、それだけではなく、面倒くささや、愚かな人間との交わりの拒否みたいな何かが。


2021年の4月の終わりか、5月の初めころだっただと思う。

義母の高田永子が、まだ借金があるようなことをちらつかせてきた。


「もういい加減にしてください」と私は本当にあきれ切って、義母に言った。

「もう、これ以上かかわりたくないんで、お義母さんの通帳とカードは返します。これで好きにやってください」と、私は妻の了承を得てから、義母に通帳とカードを渡した。

その判断が正しかったのか?間違っていたのか?それはわからないことだ。

自分の財産をどのように使おうが、結局のところ個人の問題である。

ギャンブルにはまろうが、酒におぼれようが、女にみつごうが、投資詐欺を信じ続けようが…。

究極のところ個人の財産をどう使おうが、それは個人の勝手である。


4月の終わり、上野から私の携帯に電話があった。

仕事帰り、高速道路を運転中だったので、ある程度落ち着いてから上野に電話をかけなおした。

20時30くらいだった。


「上野さん、お電話いただいたようで」

「高田さん、お金貸してもらえないかな?」

「お金、どうして?」

「お金が必要なのよ」

「なんで私なんですか?」

「だって、もう誰も貸してくれないから」

「で、いくらですか?」

「20万円、明日までに必要なのよ」

「明日って、それ急すぎでしょ?もう21時ですよ」

「でも、必要なのよ」

「必要なのはわかるけど」

う~ん、なかなか面倒くさくなりそうだった。

「貸すには条件がありますよ」

「どんな?」

「T町の物件、あれの権利書をくださいよ」

T町の物件とは、バブルの時に上野家が建てた別宅的な物件で、今現在(2021年当時)3500万円で売りに出されていた。

3500万円で売りにされている物件など、こんな田舎にはそうそうないので、検索したらすぐに出てきた。

「あれはダメなのよ、娘が持ってるから」

「じゃ、娘さんからもらってきてくださいよ」

「だめよ~、娘が怒るから」

「娘が怒るからって、こっちはそれくらいことをしてもらわなくちゃ、貸しようがないじゃないですか?」

この時、上野の借金額は690万円。あえてその時はそのことについて触れていない。

「でも、あれはダメ」

「そしたら、保証人は?きちんとした保証人をつけてくれたら考えてもいいですよ」

「夫じゃダメ?」

「ご主人はなぁ、ちょっと知り合いとか別の人の方がいいですね」

「うん、わかった探してみる」そう言うと、上野は電話を切り、私は車を止めていたコンビニから帰路についた。

家につくと早々、上野から電話があった。

「保証人ダメだった」と上野は言った。

「じゃ、ダメですね」

「どうしてもダメ?」

「どうしても」

「必要なのよ、20万、来月には返せるから」

「そこまで言うなら、例の物件の権利書、あれを持ってきてくくださいよ」

「だから、あれはダメなのよ~」

「だったら、こっちもダメだってことですよ」

「じゃ、おばあちゃんはどう?年金が入ってくるから、おばあちゃんなら保証人になれるでしょ?」

「う~ん」

自分の母親まで持ち出してくる上野の婆さんに、哀れさを感じるとともにうんざりもしていた。

「あの物件の権利書を用意してください。そしたら借金の相談に乗りますよ、明日も早いんで、週末に話を聞きますんで」

「明日必要なのよ」

「明日必要だって言われても、明日も八王子で仕事だから」と私は言った。

「だったら、八王子まで取りに行きます」だって。

やれやれ、夜間だってお金くらいおろせる、断りのつもりで八王子という地名を出したのに…。

「とにかく、今日はこれでおしまい、家に来ないでくださいよ、家に来たら警察に通報しますからね」

 これが私と上野の「来月お金が入るから今月貸して」の初めてのやり取りだった。

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