最終話:詐欺じゃないの 太陽になりたかった星

※これはフィクションです※

上野明美が鼻歌まじりに歌を歌っている。

懐かしい曲だ、美空ひばりの「真っ赤な太陽」。

真っ赤に燃えた太陽だから…。

鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで小さな錠剤を1つずつ口の中に放り込み、ラッパ飲みのサントリーオールドで喉の奥に流し込む。

目にはうっすらと涙を浮かべている。

時々笑いながら、時々悲しみの笑みを浮かべながら、上野は歌う。

上野明美は風呂のスイッチボタン押し、風呂のお湯を貯め始めた。

時刻はまだ14時か15時。

街中からは、かまびすしいクリスマスソングが終わり、重苦しい正月の歌が流れ始めていた。


湯舟に溜まった湯を確認し、大切なものを忘れてたの思い出し、玄関に置いてあった練炭を2つ風呂場に置き、それに火をつけた。

風呂の蓋を2つほど閉じ、そこにスマートフォン、残りの錠剤40錠ほどあるだろう睡眠導入剤、半分まで飲んだサントリーオールドと氷いっぱいのグラス。そして若い時に吸っていたセブンスターを置いた。

練炭2つが赤々と染まるを確認し、上野はゆっくりと自分の人生を確認するかのように、服を脱ぐ。

服を全て脱ぎ終わった後、思わず冬の寒さに身震いする。

風呂の扉をきちんと閉め、ゆっくりと自分の体を湯船に沈めた。

数十年振りに吸ったタバコ、風呂でのウイスキー、多すぎる睡眠導入剤と粛々と燃える練炭のせいで意識が朦朧とし始めた。

もはや鼻歌すら歌えない上野は、ユーチューブのプレイボタンを押した。

ヘイリーの歌うアメイジンググレイスが流れた。




上野明美のお気に入りの曲だ。

上野は朦朧としながら、ヘイリーとともにアメージンググレイスを歌い、自分の人生を振り返るのだった。


「驚くばかりの神の恵み

何と美しい響きであろうか

私のような者までも救ってくださる


道を踏み外しさまよっていた私を

神は救い上げてくださり

今まで見えなかった神の恵みを

今は見出すことができる


神の恵みこそが

私の恐れる心を諭し

その恐れから

心を解き放ち給う


信じる事を始めたその時の

神の恵みのなんと尊いことか


これまで数多くの危機や苦しみ

誘惑があったが

私を救い導きたもうたのは

他でもない神の恵みであった


主は私に約束された

主の御言葉は

私の望みとなった


主は私の盾となり

私の一部となった

命の続く限り


そうだ この心と体が朽ち果て

そして限りある命が止むとき

私はベールに包まれ

喜びと安らぎの時を

手に入れるのだ


やがて大地が雪のように解け

太陽が輝くのをやめても

私を召された主は

永遠に私のものだ


何万年経とうとも

太陽のように光り輝き

最初に歌い始めたとき以上に

神の恵みを歌い

讃え続けることだろう」


世界の民謡・童謡 アメイジング・グレイス 歌詞の意味・和訳 より



私の人生とは、いったい何だったのだろうか?


私はいったい何をしたかったのだろうか?


ヘイリーの歌うアメージンググレイスが終わり、静寂が狭い風呂場を満たした。

冬の陽が落ち始め、上野明美のいる風呂場は薄暗くなりつつある。

赤みを増していく練炭だけが、ただ世界に存在するかのようだった。



>>>完

最初から読む >>>2021年3月27日 総合支援資金特例貸付

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