2025年9月14日 上野明美の場合 霹靂

 


※これはフィクションです※

下の娘ともかから電話があったのは、まだ6時を少し過ぎたくらいのことだった。

「お母さん、どうして、どうしちゃったのよ、どうするのよ?」

その慌てふためいた娘の声に、上野の自身も気持ちが揺さぶられた。

ただ、電話口の娘がいったい何を言っているのか、上野はまるきり見当がつかなかった。

「どうしたの?ちょっと、落ち着いて、ともかちゃん」

上野は、自身にも言い聞かせるように、ゆっくりと娘を諭した。

「落ち着いてなんかいられないわよ、どうするの、ほんとに」

「なんのことを言っているの?」

「動画よ、ブログもそうだけど」

「動画?」

「お母さん、知らないの?動画出てるのよ、お母さんが」

「…」そう言われても、上野には、いまいちピンと来なかった。「動画がどうしたの?」

「お母さんがユーチューブに出てるの」

「えっ、なんで?」

「それはこっちが聞きたいわよ」

「…」電話の向こうにいる娘のすすり泣く声を無言で聞きながら、上野はことの重大さを感じ始めていた。

「もう、なんでこうなるのよ、拡散されたらどうするのよ」

「…」拡散?何?よくわからない、そう思いながらも、上野は言うべき言葉が見つからなかった。

上野のスマホが震える。

上の娘からの電話だ。

「ちょっとお姉ちゃんから電話だから、いったん切るね」

上野はともかに告げ、上の娘城田さとこからの電話に出た。


「お母さん、まだやってたの?」城田さとこは明らかに怒気を含んだ声で言った。

「何を?」

「ネットワークのやつ」

「あれは、もう解決するから」

「そんな訳ないでしょ?」

「でも、もう、これで、今月で解決するから。高田さんちの息子さんと、その友達から100万ずつ借りて、これでもうおしまい」

「はぁ~」ため息ではなく、はっきりと、はぁ~と城田さとこは言った。「もういい加減にしてよ」

「大丈夫だから、来月にはお金戻ってくるんだから、心配しないで」

「お母さんさ、録音されてるよ、知ってるの?」

「う~ん、そういえば、高田さんとの電話の時に、録音しますって音は聞こえてるけど。何か問題でもあるの?」

「はぁ、あきれた、大問題よ。その録音された内容を全部、ユーチューブにアップロードされているのよ」

「アップロード?なんで?誰が?」

「高田って人でしょ?」

「高田さんがどうして?」

「理由は知らないよ」

「お母さんの顔とかも出てるし、どうするの?」

「…」娘二人に同じよう言われている。これはおそらく、非常にまずいことなのだろう。

しばらく無言が続く。

「ちょっともう電話切るね、会って話そう」城田さとこは、一方的に電話を切った。

上野明美は、しばらくスマホを見つめ続けた。

何が起こっているのかを理解するまで、上野は、スマホをじっと見つめ続けた。


そういうことか、ハメられたのか私は。

あの高田の息子と寺田に。

いったい彼らは何が目的で?

仕方ない、嫌だけど、電話するか、高田の息子に…。

上野明美は、スマホを持った震える右手を、左手でピシャリと叩いてから、高田Cに電話をかけたのだった。



>>>【音声データ】2025年9月14日 #1 どうしてバレたんだ? 上野がもう手じまうと言い出した

コメント