※これはフィクションです※
時計の針は23時を少し回っていた。
明日は日曜日、子供たちは学校が休みだ。
少しは寝坊ができる、と城田さとこは、ソファーでぼんやりと考えていた。
もう少し撮りためたテレビドラマでも見ようか、それとももう寝ようか、ソファーで大きく伸びした時、妹のともかからLINEが来た。
「お姉ちゃんどうしよう」
「どうしたの?」と、さとこは返した。
「お母さんがやばいかも」
妹のその言葉を見て、さとこは背筋が凍る思いをした。
多分、母はまだ終わってなかったのだろう、例の投資詐欺…。
母も父も、もうやっていないと何度も言ったが、そんな事は信じられるわけなかった。
今までだってそうだったのだから。
やめるやめると言って、やめてなかったのだから。
これで最後だから、という言葉を、母から何度聞いたことだろう。
「何年あの人に苦しめられればいいの?」さとこは、がっくりと肩を落とす。
これから先何年あの人に苦しめられればいいの?
「クソがっ」思わず出した自分の大きな声に、自分でも驚いた。
城田さとこは、自分の体を確かめるかのように、自分の身をぎゅっと抱きしめた。
1分間は固まっていただろう。
いや、もっと長かったかもしれない。
さとこを意を決し、妹に電話をした。
妹のともかは、今まで聞いたことないような歌うような震える声で、嗚咽混じりに話し始めた。
不審なDM、そして、かぶおぢさんと名乗る、不審な男について、口の中に残った吐しゃ物のカスを吐き捨てるように話した。
一通り話を終えると、妹のともかは、「お姉ちゃん、どうしよう、どうしよう」と、そればかりを歌うように繰り返した。
「とりあえずもう寝なさい」さとこは、極力感情を抑えて、妹にそう伝え、おやすみと言った。
電話の長話を聞きつけ、上の階にいたさとこの旦那が階下に降りてきた。
そして、鬼の形相でにらみつけるさとこと目が合い、城田は思わずギョッとした。
声をかけようかどうか迷ってる場合ではない。
「どうかしたのか?」城田はさとこに声をかけた。
「お母さんのこと。お母さんのことで、大変なことになったかもしれない」
「なんだって?」
「お母さんがネットでさらされてる」
「…」言葉を失う城田。
「ある人が、お母さんのことを悪質債務者として動画をアップロードしてるの」
「確認したの」
「少しだけね」
さとこはうんざりしながら、旦那にスマホを手渡した。
城田は確かに義母が写っている動画を見て、それ以上見るのをやめた。
「なんてことしてくれるんだ!」
城田のその言葉は、もちろん、かぶおぢさんか、上野明美に向かっての言葉だ。
しかし、夫のその言葉は、さとこの胸に深く突き刺さった。
「本当になんてことをしてくれたんだ…」
城田はその言葉を残し、自室に戻るのだった。
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